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第 5 話
シロアリ防除の薬剤は植物にどのような影響を及ぼすのか?
シロアリ防除の施工では、床下だけでなく外周部への薬剤処理を行うことがあります。その際、まれではありますが、庭木や草花などの植物に薬剤が付着してしまう場合があります。
例えば、外壁基礎にできた蟻道の駆除処理を行う際に周辺の植物に薬剤がかかるといったケースです。また床下での処理においても、作業時に換気口から薬剤が飛沫し、家屋周辺の植物へ付着する可能性があります。
薬剤が植物の葉に付着してしまった場合、どのような影響が生じるのでしょうか。
シロアリ防除施工で使用する薬剤にも、さまざまな種類があります。このため、薬剤の種類によって葉に付着した際の影響が変わってくることが考えられます。
そこで今回は、数種類の薬剤を葉に付着させたときに、どのような影響が出るかを観察してみました。
実験の目的と”剤型”について
今回の実験では、「剤型」の違いによって植物の葉に現れる影響を比較しました。
剤型とは、有効成分を効果的に使用するために加工された薬剤の形態のことですできるよう、用途に合わせて加工した形態のことです。同じ有効成分でも、剤型によって付着の仕方や浸透性、残り方が大きく変わります。
実験方法と条件
ここでは、今回実施した検証の具体的な条件と手順について説明します。
使用した薬剤と剤型
本実験では、以下の3種類の剤型を使用しました。
- • 乳剤(A剤):有効成分を有機溶剤に溶かし、乳化剤を加えた製剤
- • マイクロカプセル剤(B剤):有効成分を微小なカプセルに封入した製剤
- • フロアブル剤(C剤):固体の有効成分を細かい粒子にし、水中に分散させた製剤
それぞれ、実際の施工で使用される濃度(通常倍率)および比較用の濃度で希釈しています。
[表1. 使用薬剤と希釈倍率]
| 薬剤名 | 剤型 | 剤型の説明 | 希釈倍率1 | 希釈倍率2(通常) |
|---|---|---|---|---|
| A剤 | 乳剤 | 有効成分を溶剤に溶かし、これに乳化剤(界面活性剤)を加えた製剤。 | 原液 | 20倍 |
| B剤 | マイクロカプセル剤(MC剤) | 直径が数μmから数百μmの微小カプセルの中に有効成分を封じ込み、水に懸濁させた製剤。 | 10倍 | 100倍 |
| C剤 | フロアブル剤 | 固体の有効成分を細かい粒子にし、分散剤等を用いて水中に懸濁させた製剤。 | 10倍 | 200倍 |
使用した植物の葉
葉の性質による違いも確認するため、以下のような複数の植物を使用しました。
ウオンシュウミカン、オリーブ、キンモクセイ、ツバキ、モッコウバラ、ビオラ、ノースポール、クリスマスローズなど
実験手順
実験は以下の手順で実施しました。
- 1. 生きた葉を採取
- 2. 各薬剤を規定倍率で希釈
- 3. ピペットで葉に滴下
- 4. 1日後に状態を観察
- 5. 濡れたウエスで拭き取り後の状態を確認
※実際の施工で起こりうる「付着→乾燥→対処」という流れを再現しています。
実験結果 剤型による植物への影響の違い
葉の種類による差はほとんど確認されませんでした。一方、薬剤を滴下した結果、剤型によって葉への影響に明確な違いが見られました。
乳剤(A剤)では、葉の表面に茶色~黒色のシミが生じ、拭き取っても除去できませんでした。これは葉の内部組織まで影響が及んでいる可能性を示しています。
一方で、マイクロカプセル剤(B剤)とフロアブル剤(C剤)では、白い付着物が表面に残るものの、拭き取りによって比較的容易に除去することができました。
[表2.A~C剤をオリーブの葉に付着させ、1日後の様子]
考察 剤型による植物への影響の影響の違い
[表3. 「剤型」の違いと、葉に滴下後の状況]
乳剤(A剤)の影響
乳剤には有機溶剤が含まれており、これが植物の表面にあるクチクラ層(葉を保護する層)を溶かす作用があります。その結果、葉の内部組織にダメージを与え、シミとして残ったと考えられます。
マイクロカプセル剤(B剤)の影響
マイクロカプセル剤は、数μm~数十μmの微小なカプセルの中に有効成分が含まれています。水分が蒸発すると、このカプセルが葉の表面に残り、白く見える状態になります。
粒子が比較的大きいため葉の内部には浸透せず、表面に付着している状態にとどまるため、拭き取りが可能です。
フロアブル剤(C剤)の影響
フロアブル剤は固体粒子が水中に分散している製剤です。水分が蒸発すると粒子が葉の表面に残り、白い粉状の付着物として確認されます。
この付着物も表面にとどまるため、濡れたウエスで物理的に拭き取ることができたと考えられます。
施工時の注意点 植物への影響を防ぐには
今回の結果から、剤型によって植物への影響が異なることが分かりました。
特に乳剤はダメージが大きいため、施工時には養生を行うなど、植物への付着を防ぐことが重要です。
また、マイクロカプセル剤やフロアブル剤は、付着した場合でも表面の固形物を拭き取ることで除去できる可能性があります。ただし、拭き取りによる物理的な影響や、有効成分以外の配合成分(乳化剤・分散剤・増粘剤など)による影響は完全に除去できるわけではありません。
そのため、事前に薬剤が付着しないよう養生をしっかり行う、飛散しないよう散布の際は細心の注意を払うなどの対策を行うことが最も重要です。
万が一植物に薬剤が付着した場合は、速やかに散水して洗い流し、除去・希釈することで、影響を最小限に抑えることができますます。そのため、施工後の確認もしっかり行うことが重要です。
参考文献
- シロアリ及び腐朽防除施工の基礎知識
- レーヴンジョンソン生物学 下
- 当社使用薬剤会社様からのご助言
- 防疫薬総合管理セミナー資料(2015)
更新日:2026年6月18日
<監修者>
- 北海道大学 理学部 卒業
- 北海道大学大学院 環境科学院 修士課程修了
- しろあり防除施工士
- 蟻害・腐朽検査士
- 文化財虫菌害防除作業主任者
- 文化財IPMコーディネータ
学生時代、シロアリの兵隊分化に伴う唾液腺の分化転換というテーマで研究。 現在は当社独自のシロアリ防除法の開発・改良をはじめ、生態観察や羽アリ発生予測、 社内外への情報発信、新商品提案まで幅広く担っている。









